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A short story about Kuroda's arrival at the 506th JFW. It also details the political and economical situations surrounding Gallia, 506th and some of it's members during the reconstruction of the country. The translation can be found here.

Part 1Edit

1945年初頭 ガリア中部 ディジョン 506JFW B部隊基地

「短い間ですが、お世話になりました!」 元気のよい声と、深々としたおじぎを皆の記憶に残し、黒髪のウィッチは飛び去っていった。

「面白い子だったな、また会えるといいんだけど」 黒髪のウィッチを見送ったリベリオン海兵隊、ジェニファー・J・デ・ブランク大尉の呟きは、 30分後にかなえられることになる。


「なあ、あれ黒田中尉じゃないか?」 整備員達のざわつきを耳にして、ブランク大尉はまさかと言う気持ちで滑走路に出た。 そこに滑り込んできたのは、確かに、先ほど見送ったばかりの黒髪のウィッチ ~黒田邦佳・扶桑陸軍中尉~である。

僅か数日を共に過ごしただけの関係、泣いて別れを惜しむほどの仲ではないが、 互いの好意のうち、武運を祈って送り出したばかりの相手ではないか。 また会えるといいとは言ったものの、それが30分後というのでは、情緒も感動もあった物ではない。

ただ、深刻な顔つきの黒田中尉を前にすると、ネウロイがカールスラント国境を突破し、この基地に 迫っている、そんな報告を持ち帰ったのではないか・・・と不吉な思いが頭に浮かんでくる。

「一体何が・・・」 ブランク大尉が言い終わる前に、黒田中尉は出ていった時よりさらに深々としたおじぎをしながら言った。 「ごめんなさい!忘れ物しちゃって!」

雑嚢いっぱいににあれやこれやと荷物を詰め直す黒田中尉を呆れつつも手伝い、 今日二度目の見送りを済ませたブランク大尉に、同僚が声を掛ける。

「あれが扶桑の貴族さまとはね、しんじらんない」 率直な物言いは、リベリオン海兵隊のマリアン・カール大尉。

「でも、悪い人ではないですよ」 ブランク大尉が返す。

「そりゃそうだ、貴族の家に生まれてりゃ、せこい悪さをする必要なんてないさ」 農場の生まれで、苦労して学を修めたカール大尉は手厳しい。が、その口調には、 模範的な子供とは言いがたかった、過去の自分への皮肉も混じっているようだった。

「そういう意味じゃなくて・・・意地悪いですよ。マリアン」 リベリオン国籍を持ち、自分の代では既に実質的な意味を失っているとはいえ、 ヒスパニア貴族の末裔に連なるブランク大尉は、自分のことを言われたようで、 拗ねた口調でつぶやく。

ブランク大尉のこういう態度には弱いカール大尉である。 「ああ・・・悪かった。今のは取り消す。それに、私だって黒田のこと嫌いじゃないよ」 気まずさと照れ隠しから、カール大尉は話題を余所に向けるとにした。 「黒田はあっち(A部隊)よりうちのほうがお似合いじゃないか?中佐」

大尉から話を振られたB部隊隊長のジーナ・プレディ中佐は、本国から送られてきた 雑誌から目を上げると、否定とも肯定とも付かないジェスチャーで肩をすくめるだけだった。



同日・数時間後 ガリア北東部 セダン 506JFW A部隊基地


1944年、501JFWらの活躍により解放されたガリアであったが、 復興を巡る国内での政治的な駆け引きと混乱に加え、そこに影響力を持とうと 援助を申し出た各国列強の思惑に翻弄されることとなった。

混乱の余波は軍事面にもおよび、ガリア防衛のためと新設された506JFWは、 純軍事的な必要性とはかけ離れた形で編成される。 その象徴といえるのが、各国の貴族のみで構成されたA部隊と、リベリオン人 だけで構成されたB部隊、そして、ディジョンとセダン2カ所に設けられた基地である。


「はあ、やっと着いた」

欧州はガリア、506JFWに所属せよとの命令を受けた黒田中尉は、定刻どうりに同部隊に 合流した・・・ はずだったのだが、指定された貴族中心のA部隊・セダンでなく、何を間違ったのかディジョンの B部隊に出頭し、双方の指揮官を呆れさせることになったのである。 使用していたストライカーが不調だったため、整備と休養をB部隊で行い、本来の 目的地、A部隊のセダン基地に到着したのは、予定から二日遅れとなっていた。

「同じ部隊なのに離れたところに基地構えちゃって、ややっこしいなあもう」

己のそそっかしさを棚に上げ、中尉は愚痴をこぼす。 とはいえ、そのような複雑な事情があったからこそ、分家の貧乏華族出身である 自分がガリアに派遣されたわけだし、それに付随した経済的特典の数々を 手にすることが出来たのである。

尤も、中尉にとっては経済的要因こそが主題で、ガリアでの任務は、クビにされない 程度に働けばよいという、こちらが付随物と言える扱いであった。 僅かな時間ですっかり馴染んだ、B部隊の気楽な空気に後ろ髪を引かれつつも、 まずはソロバン勘定が優先である。

「これでじっちゃんとばっちゃんにも楽させてあげられるかな~」 本家の人間が聞いたら目を丸くしそうな”平民言葉”をつぶやくと、中尉はセダン基地へと 降下していった。

Part 2Edit

--着陸--

セダン基地滑走路へのアプローチに入った黒田中尉の目に、一人のウィッチが留まる。

滑走路の端、ちょうど基地施設への入り口に当たる部分で、黒田中尉を待ち受ける形になっていた そのウィッチは、事実黒田中尉を待ち受けていた。

遠く扶桑からの長旅を終え、無事に着陸を済ませた黒田中尉であったが、安心する暇もない。 B基地で手入れしてもらったとはいえ、完調とは言えぬストライカーの様子に、眉根を寄せた 黒服のウィッチが立ちはだかっているからだ。 長く豪奢な金髪、黒字に赤のパイピングがほどこされた制服の胸に、銀糸の鷲章が輝いている ことから、そのウィッチがカールスラント空軍所属であることが見て取れた。

「黒田中尉じゃな」 「あ、はい、黒田那佳、扶桑陸軍中尉であります」 「ハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン。  カールスラント空軍大尉。506の戦闘隊長をやっておる」

「え・・・あのう・・・」 矢継ぎ早に情報を浴びせられ戸惑う黒田中尉に、「またか」と言う感情を隠しきれない口調で続ける。 「・・・ウィトゲンシュタインでよい。こちらだ、グリュンネ少佐が待っておる」

「は・・・はい・・・あのう・・・戦闘隊長さんがわざわざお出迎えに・・・?」 「ふん、基地を間違えて意気揚々と着任報告に行ったという”うっかり物”が、  どのような奴か気になったのでな」

ウィトゲンシュタイン大尉としては、初めて欧州の地を踏むような相手に向かって、 ことさらに難詰するような意図はなかったのだが、それでも言い訳の一つもあれば、 ここではそのような物は通用しないのだ、という厳しさを見せるつもりでいた。 何事も初めが肝心である。のだが。

「申し訳ありません!」

ただ頭を下げられ、その大声にハンガーの整備兵達が何事かと集まってくる状況は、 大尉としてもばつが悪い。

「な・・・ふん、反省はしているようじゃな。おまえ達も、仕事に戻れ!」

「はあああ・・・言い訳次第もございません」 「その件はもうよい。グリュンネ少佐に着任の報告をしてまいれ」 「ほんとですか!」 「な・・・!?」 「何か罰とか・・・そのう、具体的には減給とか・・・」

これには大尉も面食らった、と言うか毒気を抜かれたようだ。 「わらわはそんなことまで管理してはおらん。どのみち、この件の沙汰無しは決まっておるから安心せい」 「わあ・・・よかった!」

明日死ぬと言われたような様子が一転、足取りの軽さがスキップ寸前の域に達している 中尉の背を、ウィトゲンシュタイン大尉は呆然と見送るほかなかった。


--着任--

「黒田那佳、扶桑陸軍中尉、着任の報告にまいりました。」

通された部屋の、貴族部隊とは思えぬ質素さ、とはいえ、寒々しい印象でもなく、 手入れの行き届いた作家の書斎と言った趣に、中尉は好感を抱いた。

ロザリー・ド・エムリコート・ド・グリュンネ少佐は、ブリタニア空軍所属ではあるが、 ガリア・ベルギカの伯爵家の跡取りで、黒い詰め襟と、白いタイツにブーツという 制服は、ベルギカ側の親族から受け継いだ物である。 現代の目でみれば、実戦に使う物としては装飾過剰な印象の制服であったが、少佐は元々前線指揮は 取らない名誉隊長職であり、むしろ前時代的で古風な「貴族軍人」を感じさせる出で立ちが、 人々に好感を与えていた。

少佐と対面した黒田中尉は、深い青緑の目、色素の薄い金髪を三つ編みにし、さらにそれを うなじのあたりで丸くまとめた姿に、おとぎ話のお姫様か、むしろその優しい母のようだと 言う印象を持った。

「遠く扶桑からおつかれさまでした。いろいろとご苦労もあったと思いますが・・・」 「あうっ、はい・・・やはり問題で・・・?」

ご苦労という言葉を、先日の失態の遠回しな表現と受け取った中尉はおおげさに身をすくめ、 ごくゆっくりと言葉を継いだのだが、相手にその意図はなかった。

「いえ・・・あ、そういう意味ではなくて」 「意味ではなくて?」

「そのう・・・」 今度はグリュンネ少佐が言いよどむ番だった。 「ディジョン基地のほうで、辛いことはありませんでしたか・・・?」

「へ?」 黒田中尉の素っ頓狂な返事に、少佐は小動物のように身をすくめる。

「私たち・・・その・・・あまりリベリオンの方々に好かれていないようなので・・・」 「ええ?」 かみ合わない認識に、黒田中尉の声がひときわ大きくなる。

「向こうの人みんな親切でしたよ。いやみんなかどうかは二、三日じゃわからないか~。 そりゃさすがに、竹馬の友って感じじゃあないですけど、向こうの絵札遊びとか教えて もらったし、いい人達でした!あ、竹馬っていうのは扶桑の遊びでして、転じて・・・」

思いついたままを勢いよく口に出す中尉に圧倒されたグリュンネ少佐だが、とにかく その元気さに安心はしたようだ。

「じゃあ、なにか辛い目にあったってことは」 「ありません!」 「そう・・・よかった」

よかった、と言われても安心できないのは黒田中尉のほうである。 「向こうの人と中悪いんですか?」 「いえ・・・その・・・別に喧嘩をしているわけではないのですが、向こうは向こう、うちはうち  と言う感じであまり交流もなく・・・よくないことだとはわかっているんですが」

「ううん・・・」 中尉としてはどう答えた物か。とにかく、ここに配属された以上は給料分の働きをし、 国許の祖父母に楽をさせてあげるのが先決である。頭を使う問題は、自分の領分ではなかった。 ただ、自分の出会った陽気で人懐っこいリベリオン人と、少佐の心配事が頭の中で 重ならない違和感は残る。

「そうだ!少佐、これ」

黒田中尉は、手荷物から一本のビンを取り出した。

「これは・・・?」 「コーラです。向こうの人にお土産にもらいまして~ ブリタニアで言えば紅茶みたいな、 毎日飲んでも飽きない物だそうです。無いと死ぬくらい。慣れないうちは薬臭いかもしれませんが」 「いただいていいの?」 「はい、別に私個人宛って訳でもないですし、それに」

袋の口を大きく開くと、まだ数本のビンが雑嚢に収まっている。 「自分の分もとってますから」 黒田中尉は明るく言い切った。

「それでは、失礼します」 「はい、わからないことがあったら、何でも聞いて下さいね」 「お願いします。あ・・・ところで少佐、栓抜き大丈夫ですか?その、使い方も含めて」 「もう・・・そこまでのお姫様暮らしではありませんよ」 優しく微笑む少佐の様子に安心し、黒田中尉は隊長室をあとにした・・・途端

「わ・・・ひゃっ!」 ドアの向こうからグリュンネ少佐の叫び声が上がる。

「少佐!」 あわてて部屋に踏み込むとそこには、吹き上げたコーラの中身で、作業中の書類と制服を 塗らした少佐の姿があった。

「やっぱり・・・嫌われてるのかも・・・」

Part 3Edit

--出撃--

着任報告を終えた黒田中尉は、ウィッチ用の談話室を覗いてみたが、そこには誰もいなかった。 当番兵から聞いたところでは、ウィトゲンシュタイン大尉、それにこの部隊もう一人の大尉、 ロマーニャ空軍のアドリアーナ・ヴィスコンティ大尉共々、現場主義でハンガー横の 簡易休憩室にいることのほうが多いとのこと。 もっとも、ウィトゲンシュタイン大尉に関しては部下の仕事ぶりの監視という意味合いが 強いようではあるらしい。

「これで簡易ねえ・・・」 高級ホテルの一室かというような内装に、黒田中尉は苦笑した。

扶桑の華族、黒田家とはいえ、分家出身の中尉である。 ひもじいという思いはなかったものの、華族というイメージからかけ離れた慎ましい 生活を送っていた中尉にとっては、基地設営に関して、「貴族様のお住まいだから」 という過剰な気遣いがされた感は否めない。

むしろ、個人の趣味でまとめられたグリュンネ少佐の執務室のほうが、よほど 落ち着いた雰囲気である。

「金持ってるって思われてるんだろうなあ」 溜息混じりに呟く。

ただ、ドア一枚向こうはハンガーに直結する廊下であり、高級な壁紙に遠慮なく画鋲で留められた 種種の工程表、スケジュール類に現場の空気が漂っている。 そこにも人がいないことを確認した中尉は、ハンガーへと向かった。 追々新型ストライカー受領の際は、扶桑から技師が派遣されてくるだろうが、しばらくは 現地部隊のお世話になるだろうし、挨拶しておきたかったのだ。


「おや、新入りさんか」 ハンガーの入り口そば、濃い影の一角に、そのウィッチはいた。 南欧人らしい健康的な肌色に長身、軽くウェーブした濃い赤栗毛の髪、黒いダブルの軍服を きっちりと着こなし、ループタイの留めには、長い体をくねらせる竜がデザインされた ブローチが輝いている。

「アドリアーナ・ヴィスコンティ。ロマーニャ空軍大尉だ。よろしく。」 もたれかかっていた壁から背を離し、こちらに歩み寄ってきただけの動きにも、 しなやかさと力強さを感じさせる。ブルーグレーの鋭い目つきと相まって、 大型のネコ科肉食獣のようだ、黒田中尉は連想した。

「こちらこそ、黒田那佳、扶桑陸軍中尉です。よろしくおねがいします」 「ああ。上では黒田中尉は私の指揮に入ってもらう。ま、気楽にな」 「あ、そういえば」

中尉は少し気になっていたことがあった。

「ウィトゲンシュタイン大尉はナイトウィッチなんですよね。戦闘隊長職って難しくないですか」 「おっと、本人のいるところでとは度胸があるな、黒田中尉」

ヴィスコンティ大尉がくいっと親指で指したハンガー奥には、忙しく整備兵に指示を出す ウィトゲンシュタイン大尉の姿があった。

「わちゃあ・・・、いえその、能力的なことでなくて睡眠時間とかなんとか、大丈夫なのかなって!」 慌てるあまり、最後のほうは叫び声のようになってしまった中尉を目に、ヴィスコンティ大尉は くっくっと小さく笑っている。 「姫様の説教につかまったか。不運だな、いや迂闊と言うべきか。がんばれよ黒田」 「聞こえておるぞ、ヴィスコンティ大尉」 「おっと、失礼」 「全く・・・まあよい、そう見られても仕方のない部分もあろうからな」

この反応にヴィスコンティ大尉は、ほう、と言った反応を見せる。 「昨日の夜間哨戒でなにかいいことでもあったかな。すぐ態度に出るタイプなんだ」 「へえ・・・」 ヴィスコンティ大尉に耳元でささやかれ、黒田中尉は返事を返す。

「だから、聞こえておるわ!」 なにやら顔を赤くしたウィィトゲンシュタイン大尉は、既にやりとりの主導権を失いつつあるようだった。

「実際のところ、昼間戦闘に関しては、そちらのヴィスコンティ大尉に一任しておる。  黒田中尉も基本的には大尉の指揮下で戦ってくれればよい。 夜間哨戒任務や、緊急時  には私の指揮下となる」 「はあ・・・」 詰まるところ、どういうことなの、と言う黒田中尉の疑問には、ヴィスコンティ大尉が答えてくれた。

「いわゆる政治的な決定という奴でね。カールスラント軍人が戦闘隊長という看板、これが  部隊設立の合意に必要だったのさ」 「言いたい放題言ってくれるな。じゃが、戦場での働きに関して、私もその部下も、後ろ指を 指される謂われはないぞ」 「実力に関して疑いはないさ。それに、多国籍部隊の隊長職なんて、書類仕事を考えたら 寒気がするよ。そんな厄介事、引き受けていただいてこちらも感謝している」 「口の減らん奴じゃ・・・能力に応じた職責に応えられんようでは、家名を背負って 戦うことなど出来はせんぞ。ただでさえ、貴族という者は・・・」

そこまで言ったウィトゲンシュタイン大尉を、ヴィスコンティ大尉がさえぎる。 「”高貴なる義務”ってやつかい?中世の戦争なら立派な心がけと言いたいが・・・  時代が違うし、何より相手が違う。・・・私たちの敵は、人間ですらないんだ」 「・・・わかっておる」 「名乗りを上げれば、ネウロイが正々堂々の一騎打ちをしてくれる訳じゃない。  この戦いは、貴族だけの義務でも、まして責任でもないんだ」 「わかっておるわ!」

「・・・わかっているなら、いい」 そう言ったヴィスコンティ大尉の目には、憂いのような、相手への心配の色が見えるようだった。

「ええっとぉ・・・私のせいですか・・・」 自分の軽口が原因で作った空気に耐えかねたものの、どのタイミングで入っていけばいいのか。 そんな黒田中尉の悩みは、基地に鳴り響いた警報音で吹き飛んだ。 「敵襲!!」

Part 4Edit

506の両大尉が、監視所から送られてくる無線に聞き入っている。

「ふむ、中型と小型の混合か・・・ たいした物ではないようじゃな。頼めるか?」 「了解」

ヴィスコンティ大尉が出撃準備に入る。 大尉の頭に現れたのは、野性味を感じさせるネコ科タイプの三角耳。 三角形の頂点に、ひときわ目立つ長い飾り毛のが伸びている。

「珍しいだろう、カラカルって言うんだ」 しげしげと見入る黒田中尉に、大尉はそう説明してくれた

ロマーニャ製では最高クラスの性能と評判の高い新鋭機、mc205Vヴェルトロ。大尉の機は、 腹側がライトブル-、背側が二色のグリーンで迷彩され、スピナー部は白色で塗装されている。 慌ただしく発進準備が進むなか、黒田中尉は大尉に声を掛ける。

「お一人で大丈夫ですか?」 「ああ、上にもう一人いるから、大丈夫だ」 「上?」 「ちょうど哨戒中のがいてね」

そういうと、大尉は傍らの無線機で、上にいるというウィッチと通信を始めた。 「アイザック、どうだ?」

「まだ視認してませんが・・・先行しましょうか?」 無線のノイズ混じりであったが、返事の声は少年にも聞こえるような、中性的な響きがあった。

「いや、無理しないでいい。私もすぐにでるから、上で合流しよう。どのみち、私らの獲物は 残っていないかもな」

501がガリアを解放してのち、カールスラント、オラーシャなどの最前線を除いては、 比較的戦況は安定していた。ブリタニアと違い、渡洋進出の必要はなく、部隊の展開、 補給が陸路でまかなえるため、防衛態勢の強化が以前より容易であるのだ。

出撃しないでいい、と言われた物の、黒田中尉としては、先日の汚名返上としたいところであった。 しかし、扶桑から持ち込んだストライカーが不運にもエンジントラブルで、早速整備には 回してもらったが仕上がりにはほど遠い。

どうした物かと辺りを見回した中尉の目が、ハンガー隅にひっそりと置かれたストライカーを捉える。 カールスラントの名機、bf109K型である。 ぴかぴかに磨かれた新品同様の外観であるが、反して置物的な未使用感はない。

「あの、あれなんですけどぉ」 「うん?わらわの予備機じゃが、なにか?」 「あれって、使えるんですが」 「当たり前じゃ。緊急時の予備じゃからな」 「今すぐにでも?」 「いつ何時でも使えねば緊急時の用を成せんではないか。うちの整備陣は万全じゃ」

その言葉を聞いた整備兵達は、忙しい手を休めることはなかったものの、まぶしい眼差しを ウィトゲンシュタイン大尉に向けた。

「じゃ、あれ使います!」

止める暇もなく、黒田中尉はbf109ストライカーに駆け寄る。 「整備さん、回しちゃって!」

とはいえ、言われた方は困惑しかできない。ウィトゲンシュタイン大尉にお伺いの視線 を向けると、

「よい、使わせてやれ」 「ありがとうございます!」

礼もそこそこに、中尉は発進準備にかかる。 黒田中尉の使い魔は柴犬。太い巻き尾が、華族にのみ許されるという、藤色の袴を持ち上げ、 小振りなお尻があらわになる。 ちょっとおどおどしているが、優しい性格のこの使い魔が、中尉はたまらなく愛おしい。

「黒田中尉は仕事熱心だな!上で待ってるぞ」 面白そうにそれを見ていたヴィスコンティ大尉が、一足先に飛び立つ。

「ん~エンジンよし、ふんふん、マルキューは初めてだけど、大丈夫!」 「なに!?」 「液冷は扶桑でも経験あるからいけます!」 「いや、おい、待て!」

黒田中尉は構わず発進態勢に入り、魔方陣がハンガーの床一面に広がる。

「待たんか、ええい!」 ウィトゲンシュタイン大尉の心配事は、エンジン形式ではなく、bf109の離着陸性能であった。 滑走時に路面近くに発生するエーテル流との相性が悪く、路面状態の如何では、ベテラン ウィッチでも離着陸時の転倒事故が珍しくなかったのである。 名機と言われたbf109の、熟成したK型においても、この問題の根本的な解決はされていなかった。

「行きます!」 黒田中尉は、はじかれたような勢いでハンガー内から滑走路に躍り出る。 普通滑走路までは低速でタキシングするのだが、整備用具やクレーン等で雑然とした ハンガー内からトップスピードに乗せてくる。

「よっと!」 軽業師めいた動きで障害物をかわし、中尉はそのまま一気に空へと駆け上がっていった。

残されたのは、唖然とした整備兵達と、憮然としたウィトゲンシュタイン大尉である。 「・・・まあ、腕はいいのかの・・・」

Part 5Edit

黒田中尉は、基地上空で旋回していたヴィスコンティ大尉と合流する。

「早かったな、中尉」 「カールスラント純正は流石って感じです」 「それじゃ、行こうか」 「了解」

二人はネウロイ発見報告のあった戦域へと向かう。 「アイザック、そっちは?」 「ん~もう近い部隊が上がってきてますね」

その報告に、黒田中尉はやきもきとする。 「どうした中尉、手ぶらで帰っても給料の心配はないぞ」 「でも!目に見える数字ってのも大事です!」

黒田中尉は、自分が華々しいスーパーエース達と同列の存在と感じたことなど全くないが、 その働きは軍上層部にも評価されていたし、それがあってこそ506部隊へ推挙されたのである。 分家のままでは立場が悪かろうと本家への養子に迎え入れられた際、以前とは手のひらを返した 態度を見せた本家の人々に、いささか辟易とした彼女であったが、別に意趣返しをしてやろうと 言うつもりもない。

そこそこの働きをしてみせることで、国なり本家なりから一圓でも多く毟ってやればいいのだ。 出来れば後腐れなく、喜んでお支払いいただけた方がいい。 だから、それなりの戦果に対しては欲のあることは否定しない。

そんなことを考えながら、黒田中尉は出撃の報があってからの僅かな違和感が 心の片隅に引っかかっていた。

「ああ!」 それに気づいた中尉が大声を上げる。

「おい、驚かせないでくれ、中尉」 「あ、すいません、そんでですねえ、アイザックて!まさかとは思いますが!」 「ん、そのことか、自分の目で確かめてみたらいい。ほら、もう見えてきたぞ」 ヴィスコンティ大尉は努めて平静を装っているが、可笑しさを隠しきれていない。

アイザックと呼ばれたそのウィッチは、二人の姿を確認すると、するりと編隊の位置に滑り こんできた。胸に地図入れのついた古風な狩猟コート、モスグリーンのハンチング帽、 明るいブラウンのショートヘアから、ふさふさした薄茶の耳が垂れている。 コートの裾からは短めの尾。スパニエル系かな?と中尉は推測した。 ストライカーはブリタニアのスピットファイアMk22。標準的なブルー・グリーン系 迷彩で、スピナーに鮮やかな青ラインが入っている。 ボーイズ対戦車ライフルを所持していることから、隊のスナイパー担当だろうか。

「はじめまして、黒田中尉ですね」 「あ・・・はい・・・」 彼?から声を掛けられた中尉は、なんとも中途半端な返事を返す。 その声は男の子とも女の子とも、どちらと言ってもいい声質で、整った顔立ちと上品な 笑顔も、これまたどちらと言いがたい。明るいブルーの瞳で見つめられて、黒田中尉は どぎまぎとしてしまう。 古来、魔力を使役した男性というのは確かに存在していたが、それは魔法が当たり前の この世界においても、昔話や伝承の域にある話だ。 そのような人物が現役のウィッチ?として、周囲の注目度の高い特設部隊に参加なんて・・・ 黒田中尉は、その疑問を払拭すべくアイザックの後方へと回り込んだ。

ぴっちりとしたタイツ状で、股下20センチあたりが丈の黒ズボン。それを後方から しげしげと見入る。

「黒田さん・・・?」 至近距離から股間を凝視されると、さすがにアイザックも居心地が悪い。

「はは!こりゃ一本とられたな、イザベル」 ヴィスコンティ大尉の陽気な声に、黒田中尉は我に返る。

「へ?イザベル?」 「はい、イザベル・デュ・モンソオ・ド・バーガンデール。ベルギカ出身ですが、 ブリタニア空軍のお世話になってます。」 アイザックと飛ばれたウィッチは答える。

「アイザックてのは?」 「話せば長いが、イザベルの別名・・・愛称みたいなもんだ」 「え?結局・・・」 「女性ですよ」 「ほんとに?」 「おいおい黒田、まさかここでイザベルのズボン脱がせて確認するとか言い出すなよ」 「どうしてもと言うなら・・・」

ズボンに手を掛けたイザベルを見て、慌てて黒田中尉は止めに入る。 「も、もう、いいですよ!私が担がれてたってことですよね!」 照れたのか怒ったのか、顔を赤くする中尉。

「そういうことだ、イザベルは少尉だから、この隊では唯一黒田の部下になる。  が、こいつはおまえさんよりは大人だぞ。あと、ジョークがきつい。慣れろ」 「改めてよろしくおねがいします、黒田中尉」 「うん・・・よろしくね!」 差し出された手を握ると、なるほどこれは女の子だな、と中尉は実感した。

「あ、ところでもう、終わっちゃったみたいですね」 「ええ!?」

見れば、破壊されたネウロイの破片が既に青空に溶けかかっている。 この戦闘に参加した他部隊のウィッチ達が、喜びと勝利を告げる航跡を めいめい空に描いていた。

「ああ、そうみたいだな。帰るか」 「ええ~~~~」

黒田中尉の506発出撃は、こうして締まりのない終わりを迎えたのである。


--戦いすんで--

「で、どうじゃった?」 「上がったときには終わってたよ。特筆するようなことはなにも無し」 ヴィスコンティ大尉は、報告もそこそこに、お気に入りのコーヒーを手にとって くつろいでいる。

「拍子抜けじゃったな、中尉」 突然ウィトゲンシュタイン大尉から話を振られ、黒田中尉はまた素っ頓狂な返事をしてしまう。 「ひゃい!・・・残念です」 「まあ、中尉の実力は追々見せてもらうとしよう。家柄だけでここに来たと言われんようにな」

先ほどのばたばたした出撃もあってか、ちくりと釘を刺された格好の中尉だが、 その受け取り方は全く違った。

「ええ?!家柄が重要なら私なんて初めから候補外です!慌てて本家に籍入れられた貧乏 分家の出身ですもん!」

悲壮感どころか、その立場を楽しんでいるかのような口ぶりの中尉に、ウィトゲンシュタイン大尉の お説教は、またも不発に終わったのであった。

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